お知らせ

大学授業一歩前(第157講) - 大学授業一歩前

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 大学授業一歩前というnoteに文章を寄せさせていただきました。運営者の方が弊ブログを見てくださったようで、お声がけいただいた形です。ブログを続けているとこんなこともあるんですね。よければご一読ください。

 

 もう1つ、Great Books(シントピコン索引)の記事をいくつか手直ししました。といっても内容の手直しではなく、単純に形式的なものです。説明はめんどくさいので簡単にまとめると、(私が使っているはてなブログのテンプレートの都合で)元々空いてしまっていた1行分のスペースを全て消しました。だいぶ見やすくなったと思います。以下は手直しの例です。

 なお、手直ししたのは以下のエントリです。

kozakashiku.hatenablog.com

kozakashiku.hatenablog.com

kozakashiku.hatenablog.com

『資本主義が嫌いな人のための経済学』の誤謬?

『資本主義が嫌いな人のための経済学』の誤謬(「『反逆の神話』の誤謬」補遺) - ラビットホール

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という記事についてコメントする。この記事は、『資本主義が嫌いな人のための経済学』の内容を引用しながら、何が間違っているかを指摘している。本記事では、そうした指摘の中で誤読に基づいていると思われる点や、十分な根拠がなさそうな点を取り上げていく。

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意志の弱さは「自己責任」か?(ジョセフ・ヒース&ジョエル・アンダーソン「先延ばしと拡張された意志」メモ)

 本記事では、ジョセフ・ヒースとジョエル・アンダーソンによる共著論文「先延ばしと拡張された意志」(Joseph Heath & Joel Anderson, 2010,  "Procrastination and the Extended Will")を紹介する。

 この論文は『時間泥棒:先延ばしについての哲学的論文集』に収録されているものだ。「先延ばしの哲学」というと日本ではあまりなじみがないように思われるが、英語圏だと(哲学に限らず)先延ばしの研究は結構盛んらしい。

"The Thief of Time: Philosophical Essays on Procrastination"

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Very Short Introductionの邦訳まとめ

 オックスフォード大学出版会のVery Short Introductionという有名な入門書シリーズがある。短くて内容も平易なので、まずはこの1冊という感じで推薦されることも多いシリーズだ。

 さて、このシリーズは当然ながら邦訳もたくさん出ているのだが、複数の出版社がそれぞれの形で刊行しているため、どれがVery Short Introductionの邦訳なのか分からないという問題がある。

 ありがたいことにオックスフォード大学出版会が以下のページに邦訳の一覧をエクセルのファイルで貼ってくれているが、ちょっと見にくい。*1*2

Very Short Introductions - Oxford University Press

www.oupjapan.co.jp

 

 ということで、このページではVery Short Introductionの邦訳を一覧の形でまとめてみた。無秩序に並べていくのもなんなので、日本十進分類に沿ってまとめている*3が、ページ検索機能を利用するなりして各自やりやすいように使ってほしい。

 一覧はとりあえず執筆時点である2023年6月までのものに限定されるが、新しいのが出ていたら順次追加していく予定である。これを見逃してるぞ、とか、こんなのが新しく出ていた、というのがあればコメントで教えてほしい(追記:Twitterで続々コメントいただいており、大変助かります! おかげで上に貼ったOUPの出してる一覧よりも網羅的なものになりました!)。

 追記:オックスフォード大学出版会のPast MasterシリーズからのちにVery Short Introductionに再録されたものについては当初除外していたが、Twitterで色々情報が集まったので、分かる範囲で追加してみた(ありがとうございます)。なおPMシリーズから再録されたものには「*」という記号を付けている。

*1:この一覧もどれくらい最新なものかは分からないが、今年(2023年)2月に出たダンカン・プリチャード『哲学がわかる 懐疑論』(Scepticism)は載っていて、今月(2023年6月)出たリチャード・ベラミー『哲学がわかる シティズンシップ』(Citizenship)は載っていなかった。また、レイモンド・ワックス『1冊で分かる 法哲学』(Philosophy of Law)など、分かった限りでも数冊ほど載っていなかった本があるので、完全に網羅的というわけでもないらしい。このページでは、分かった限りのものは追加しておいた。

*2:ちなみに探してみたら、Very Short Introductions 和訳本一覧表 - 名古屋大学附属図書館というのがあったが、2018年時点までのものらしい。

*3:日本十進分類(NDC)検索 | 市川市公式Webサイトを利用した。また、公共図書館でどこに分類されているかも確認するなどした。

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『どうしてわれわれはなんでもかんでも 「新自由主義」 のせいにしてしまうのか?』@阿佐ヶ谷ロフト

荒木優太、矢野利裕、稲葉振一郎"どうしてわれわれはなんでもかんでも「新自由主義」のせいにしてしまうのか?"

www.loft-prj.co.jp

 というイベントに行ってみた。以下、イベント内での発言(を筆者がざっくりまとめたもの)にコメントをつけていくという形で、思ったことをつらつら書いてみる。イベントで出た論点は多岐にわたっており、ここではその一部しか取り上げていないので、その点は承知しておいてほしい*1

 イベントで主に議論の対象となっていたのは左派・人文系の「新自由主義批判者」なので、本記事でも「新自由主義批判者」という語は主にそのタイプの論者を念頭に置いている。

 なお、本記事ではかなり雑なことを言っているが、より丁寧な議論というかオフィシャルな見解はこちらの記事を読んでほしい*2

新自由主義批判」の何が問題とされてきたのか - 清く正しく小賢しく

kozakashiku.hatenablog.com

*1:また、発言のまとめ方が発言者の意図を歪めてしまっている可能性もある。

*2:イベントで荒木さんがこの記事について言及してくださってました。ありがとうございます。

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「新自由主義批判」の何が問題とされてきたのか

 弊ブログではこれまで、「新自由主義(ネオリベラリズム)批判」を批判する記事をいくつか挙げてきた。そんなことをしていると、新自由主義批判」は雑だと批判するお前の議論の方が雑じゃねーか、という批判ももらったりする。確かに「新自由主義批判」批判にも(筆者の議論含め)雑なものはあると思う。そして互いに「お前の議論は雑だ」と言い合う状況はよろしいものとは言えないだろう。

 ということで、この記事では筆者から見た「新自由主義批判」批判の主な論点を挙げてみることにする。ここでの目標は、「新自由主義批判」を批判することではなく、より建設的な「新自由主義批判」批判が行われるようにするための論点整理である。そのため、論点全てについて「新自由主義批判」批判側の主張を擁護するような議論は行わないし、具体的な「新自由主義批判」の事例を逐一参照することもしない(ただし必要に応じて例示はしている)。なので『本当にお前の言うような「新自由主義批判」があるのか、藁人形論法じゃないのか』との批判が飛んでくるかもしれないが、まぁそれは論点整理記事なので許してほしい

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進化心理学と文化進化論(中尾央『人間進化の科学哲学』読書メモ)

 今回紹介するのはこちら。

中尾央『人間進化の科学哲学 行動・心・文化』名古屋大学出版会

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市場原理ってなんですか?(ウェンディ・ブラウン『いかにして民主主義は失われていくのか』読書メモ)

 今回紹介するのはこちら。

ウェンディ・ブラウン『いかにして民主主義は失われていくのか 新自由主義の見えざる攻撃』

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「新自由主義」批判がグダグダになりがちな理由(ジョセフ・ヒース論文「批判理論が陰謀論になるとき」メモ)

 今回紹介するのは、ジョセフ・ヒースの論文「When does Critical Theory Become Conspiracy Theory?」である。この論文でヒースは、「新自由主義」概念をルーズに用いた議論などを念頭に置きながら、批判理論が陰謀論に堕してしまう条件、さらにまっとうな批判理論と陰謀論紛いの批判理論を分かつ特徴を検討している。

 なお批判理論というのは、とりあえず「規範的目的を明示した社会科学的探究」ぐらいの意味で捉えればよいと思う。批判的社会科学や批判的〇〇研究を名乗っている研究はもちろん批判理論に含まれるし、左派的なポジションを明示した研究の多くも含めることができるだろう。

 どれくらい知られていることなのかは分からないが、ヒースはハーバーマスの弟子であり、自らを批判理論の伝統に属する研究者と位置付けている*1。それゆえにこそ、堕落した批判理論に対して厳しい態度をとっているという面もあるだろう。

 批判理論という言葉を使うと、日本とは関係ないヨーロッパやアメリカの話と思われるかもしれないが、本文を読んでいけば、日本でもこの論文で批判されているタイプの議論が流行っていることは分かるはずだ*2

*1:例えばホームページでは、My work is all related, in one way or another, to critical social theory in the tradition of the Frankfurt School.とハッキリ記している。Joseph Heath Home Pageを参照。

*2:また、批判理論はその起源からして左翼的なもので、本記事でも扱っているのは左派の主張だが、新自由主義批判は右派も行っている。ただし右派の新自由主義批判に、本論文での主張が直ちに適用できるわけではない。

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民営化と一口に言っても…(ジョセフ・ヒース講演「無害な民営化Anodyne Privatizations」概要)

 ジョセフ・ヒースが

Grimen-lecture 2022: Joseph Heath, University of Tronto: Anodyne Privatizations

www.oslomet.no

 という講演をやるらしい。会場はオスロ・メトロポリタン大学というノルウェーに新しくできた大学で、zoomとかもないっぽいので聞くことはかなわないが、概要をとりあえず訳してみる。適当な訳なので、気になる人は原文を見てほしい。*1

 タイトルはAnodyne Privatizationsとなっていて、anodyneは「害をもたらさない、反対する人がほとんどいない、(議論を呼ぶ要素がないので)つまらない」くらいの意味らしいが、いまいちいい訳語が思いつかないので、とりあえず「無害な」と訳した。もっと適切な訳語があればご教授ください。

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